誰もが知ってる
浦島太郎は
竜宮城で乙姫の接待を受け
楽しい日々を送っていたが、
故郷に帰ると
村の様子がすっかり変わっていた。
変わってしまう風景
外国に住む日本人が
日本に里帰りしたら、
必ずカルチャーショックを感じる。
日本は建物の建て替えが
頻繁に行われ、
日本を出たときの風景は
2〜3年もすると
変わってしまう。
毎年帰国している人は
そうでもないが、
一般の在英日本人の里帰りは
だいたい3、4年に一度である。
そうすると
あそこにあった建物が
無くなっていたり、
空き地だったところは
住宅地になっていたりする。
だから
すっかり街の風景が変わってしまっていて、
ヘタをすると、
自分の国で
迷子になったりする。
全く
浦島太郎のようである。
ある年の帰国
イギリスに住み始めて2〜3年の頃だったと思う。
長いフライトが終わり、日本にたどり着いた。
母にこれからうちに帰ると連絡するために
公衆電話をかけようとした。
(あの頃はまだ携帯がそんなに普及してなかった)
そしてはたと気が付いた。
なんと
公衆電話がモデルチェンジしていたのだ。
どうしよう!
電話ができない!
私はその辺のおばちゃんを捕まえて、
公衆電話のかけ方を教えて欲しいと頼んだ。
そのおばちゃんのびっくりした顔。
その顔は語っていた。
(この人、
日本人らしいけど、
公衆電話のかけ方知らないなんて?
おのぼりさんみたいに
キョロキョロしてるし、
………..もしかして、
網走刑務所みたいな
刑務所から
シャバに出てきた女囚とか
じゃないかしら!)
彼女は少し
おびえた態度で、
恐る恐る
公衆電話の使い方を
教えてくれた。
記憶力のいい私?いいえ時間が止まっているだけです。
日本に帰国したとき、
しばらく会ってなかった恩師を訪ねた。
そしたら
彼は2年前に亡くなっていた。
再会を楽しみにしていた私は
大変ショックだった。
その日は
恩師の家族と思い出話をした。
「20年くらい前の出来事ををよく覚えてますね。」
と言われた。
「私は記憶力なんて良くはありません。
強いて言えば、
私の中での日本は
出国した年のままで、
それ以上成長しないんです。
時間が止まっているんです。」
と答えた。
つまり
街がどんなに変わっても
私の中の日本が変わらない限り
日本に帰れば
私も出国した時のまま、26歳なのである。
私は歳を取らないんです。
人が18歳で亡くなると、
生きている人にとって
故人は永遠に18歳である。
在英日本人はこれに似ている。
お盆になったら、
故人が
あの世からシャバに来るように
在英日本人も
イギリス(あの世)から日本(シャバ)
に「里帰り」するのだ。
もしかしたら
東京や大阪にでた人も
故郷は
昔のままなのかもしれない。
あるテレビで
若返りのある実験をしていた。
懐かしい昭和の家並みを再現した博物館に
50代、60代のおばさんたちを入れて、
観察すると、
そのおばさんたちの表情が
娘のように
生き生きしてきたのだ。
それは
昔の家並みを見て、
その時代の自分が甦ったからである。
太っちょの外見は変わらないが、
心は10代の夢見る少女である。
在英日本人にとって
日本に帰国するということは
現実の生活から離れることであり、
おうちに帰ることであり、
ちょっとした
タイムスリップでもある。
だから
里帰りは
楽しいのである。