勝ち組、負け組ということばがある。億万長者になったから勝ち組だの、病気してしまったから負け組だの。その基準は人それぞれだが、げばの価値観でいうと、人間死ぬ時に満足して死んでいくーそういう人が勝ち組ではないだろうか。
いかりや長介の言葉
21世紀になって間もない頃だったと思う。ネットか雑誌でこんな記事があった。
「僕が初めてアフリカのサバンナを見た時、その絶景に感動したんだよ。遮るものがなにもない、地平線のかなたまで360度見渡せるんだぜ。それをみて僕の人生変わったんだよな。」
語っていたのは70〜年代一世を風靡していたドリフターズのメンバー、いかりや長介。ファンでもなんでもなく、ただ子供時代にテレビでみてよく知っている。その程度のコメディアンだった。でも、
「人生を変えるほどの絶景」
その言葉は強烈だった。当時家計のやりくりに四苦八苦していた主婦だったが、いつかその絶景をみに行きたい。と密かに決意した。
人間死ぬ時に満足して死んでいくーそのために私は人生でやりたいことリスト(バケットリスト)なるものを書き始めた。
•オーロラみたい
•シンデレラのお城のモデルになったドイツのノイシュバンシュタイン城をみたい
•ヨーロッパのどこかでスキーしたい
•ポーランドのアウシュビッツ収容所を見学したい
•ヴェネツィアのゴンドラに乗りたい
•サバンナの地平線が果てまでみえる絶景をみたい
というわけで、五十代に突入したころ、げばはこれらのリストを実行し始めたのだ。
シンデレラのお城: 2014年8月、50歳のお誕生日を祝うため娘たちと訪れた✔️
スキー:2017年3月、フランスとスイスの国境近くのアルプスで滑ったのだけど、さっそうと!というには程遠く、お子様向けのペンギンコースを楽しんだに留まった。いやでも、スキーやったんだから✔️
オーロラ:2023年2月、日本からイギリスに帰る飛行機の中でオーロラ発見。肉眼ではきちんと見れなかったけど、カメラに収められて、まあ一応✔️ あとでリベンジしようと密かに思っている
ヴェネツィアのゴンドラ:2022年11月、クレイジーな同僚といっしょに体験✔️
アウシュビッツ:2023年8月、日本行きがキャンセルになった2週間を利用して行ってきた。この光景は一生忘れない。ものすごい体験だった。✔️
そして2025年。
よし。最後のリスト。
サバンナをみる!
これを実行してやろうじゃないの!
そう思い立ったのである。
アフリカ行き大作戦、プランニング期間
アフリカって国名ではなく大陸名である。
どの国にいくか?
どれくらいの予算になるか?
オンラインでおおよその値段を検索すると
7日日間のサファリ旅行は一人当たり、
タンザニア、ケニア は £4000-7500
南アフリカ は £4000-5500
職場にはサファリ旅行をした同僚が二人いて、二人とも南アフリカにいってきたらしい。
4−6人のグループでいったので安く上がり、£2000くらいだったらしい。
私も何人かの友人を誘ってみたが、予算が高すぎるとか、行きたいけど今はいけない。数年後ならいい。とかいってくる。おばさんは今行きたいので、
ん、じゃあひとりでいくかあ!となったわけである。
アフリカの国々は日本やイギリスとくらべて治安があまり良くない。ホテルからはあまりで歩かないように旅行会社にいわれた。私みたいなボケーっとしたおばさんはいいカモである。ひどく不安になった。
トラブルはなにかあるからトラベルという。
だけどなにかあったら非常に困る。
ひとりでいくなら、イギリスの旅行代理店はちょっと心配だった。だから今回は少し高くても日本の旅行代理店を使うことにした。
その旅行代理店、HISに「サファリ旅行をしたいので、南アフリカの周遊8日間というのを見せて欲しい」とお願いした。それは南アフリカのチョベ国立公園サファリパーク、ビクトリアの滝、喜望峰、テーブルマウンテン、ペンギンのいるボルダーズビーチ観光という大変人気のコースであった。しかし観光とサファリを両方楽しむということは、サファリに費やす時間が少ないということ。サファリだけが目的なら、南アフリカよりもマサイマラサファリ(ケニア)がいいと勧められた。5日間のコースでサファリ三昧のコースである。私はそのコースを自分のバースデーに合わせて予約した。「バースデーホリデーだったんですね。スペシャルなホリデーなんですね!」担当者のかよさんは本当に親身になって色々おしえてくれた。私の要望、小さな質問もきちんとケニア支店に問い合わせてくれた。返事が遅れていても途中経過を知らせてくれるので安心だった。
それから旅行のための必要知識を学んだ。旅行を終えて気づいたこともあったので合わせて書いてみよう。
•ビザ:ケニアへの渡航は事前にケニア入国申請を自身で行う。(eTA) これには到着および出発の旅程の詳細、宿泊施設の予約確認書が必要である。
•ビニール袋は小さいものでも禁止。見つかると罰金を払わされる。
•飲み水は必ずミネラルウォーターを使うこと。歯磨きの時も水道の水は使わない。
•ケニアは日中は暑いが早朝、夜は寒い (サファリのホテルはキャンプだから外で寝るのと同じ。寝具はあるが、暖房設備はなし。ゆえにベッドの中に湯たんぽが入った)
•靴は履き慣れた靴を。サンダルでもいいが、運動靴の方が寒くないし、足を保護してくれる
•虫除けスプレー、日焼け止め、帽子またはスカーフ、自身の薬。それと下痢止めの薬ー(経験者が語ってくれた。サファリ中トイレに行きたくなっても車外に出れない。危険な場合があるため)
•チップは慣れなかったが、あげた方がいい。(チップをおいた翌日には湯たんぽが二つに増えていた)
•気球に乗るサファリがオプションとしてあるが、これは高くてもやる価値があると思う。たとえ動物がいなくても十分楽しめる。
•USドルが基本使える。ナイロビのホテルでも少額のUSドルをケニアシリングにかえられる。チップに利用するのに便利だ。
さていよいよ当日、朝6時に家を出発した。旅行前はいつもそうだが、妙に落ち着かない。あれ忘れてないか?これは大丈夫かとか。ゲート間違えてないか?とか。空港内にはいつも軽いストレスがある。C66の出発ゲートにも朝日が差し込んできた。人が集まってくる。ゆっくりと機内にはいる。シートは三人掛けの端っこ。隣は空席になっており、その隣は埋まっていたので私たちは3人分のスペースを2人で共有した。夕刻、機内スクリーンではフライトプランが地球儀を使って示されていた。日本の上空には灯がたくさん見えて、くっきりと日本列島の形がわかる。大都市ほど灯りが集中していた。興味深かったのが朝鮮半島では下半分だけ灯りが集中して、上半分は暗かった。上半分は北朝鮮である。アフリカ大陸も灯りが少なかった。そういえば、私の旅行はいつも灯りのある地域ばかりだった。今回は初めて灯りの少ない国にいくのである。未知の国への憧れと不安を感じながら目を閉じていたら、いつの間にか眠っていた。アドベンチャーの始まりである。