私がまだ少女だったころ。両親に連れられていった旅行先で初めてマサイ族をみた。ー満面の笑みを浮かべた、なんて人懐っこいんだーそれがマサイ族に感じた最初の印象である。

あとでわかった。

これは営業スマイルである。

マサイ族の一夫多妻事情

ドコドコドコ

車は凸凹道を進んでゆく。

バルーンサファリを終えてベビーシッター2号に引き取ってもらい、私は午前中のサファリを楽しんでいた。

ベビーシッター2号は余計なことはしゃべらないが、動物がいないと退屈なので自然と会話が始まった。

彼はサファリガイドを初めて2年くらい。サバンナのナショナルパークを熟知し車の免許をとっていた。ガイドになるにはそのうえに特別講習をうけて認定されるものらしい。

彼には妻が二人いる。

おおおおっ!などと驚いてはいけない。一夫多妻はマサイ族のなかでは常識であり、力のある男なら何人妻を娶ってもいいのだ。けれども男の甲斐性としてひとりひとりの妻にそれぞれ住居を与えなければならない。女は与えられた家に住み子供を育て家庭を作る。そして男はそれぞれの妻の家に通うのである。よって家の実権を握るのは妻である。が、経済権をにぎるのは男であるらしい。この辺は平安時代の日本そっくりである。

それで思い出したのだが、

平安時代の代表作、源氏物語の主人公光源氏は六条院という大邸宅をつくって自分の女たちを住まわせた。それは四町を含む寝殿造りの邸宅で、春の町に最愛の人、紫の上、夏の町に花散里、秋の町に養女となった秋好中宮、冬の町に明石の御方が住んだ。

私は一夫一妻を推奨するものではない。

結婚していても、恋心というものは止められない。これは全生物の性(さが)である。

しかしながら女を複数囲いたいんなら、一人一人に住居を与えて、養ってあげる。

このくらいの財力と責任をもって「恋愛」はやってもらいたいものだ。

と私は思っていたので、「全部の妻に住居を与える」という話には感動した。

マサイ族、

いいやつじゃん。

車を降りる時、シッター2号はきちんと私の手をとってエスコートしてくれた。なんだかんだいっても女性を大切にする。このへんも平安時代、よき源氏物語の精神と同じなのかぁ。

マサイ族、

いいやつじゃん。

そう思ったげばは尋ねる。

「あなたは奥さんが車を降りる時も、こうやってエスコートしてあげるのね?」

と笑っていったらシッター2号は驚いた顔をした。

「絶対しない!」

「こんなこと妻にしたことない!」

と真顔で答えられた。

….. えっ?

複数の妻をもち、それぞれに家を与え、そのうえで女性をリスペクトする光源氏。……..のようなかっこいい男性がマサイ族の男。

と勝手に想像していたが、

実際は、女は男より下。という文化らしい。

これは明治の悪しき習慣、男尊女卑というやつではないか。

マサイ族ガイドたちは免許習得講習のなかで多分教育されるのだろう。

客にはレディーファーストで接客しろと。

これもビジネスのためなのである。

サファリピクニック

サファリガイドにはツアーの雛形というものがあるみたいである。

何時に出発して、どこそこのエリアに行ってこの動物ををみせて、そのあとトイレ休憩施設によって、ピクニックエリアにいって。

こういった流れが実にスムーズに行われた。

サファリゲームがプログラム化してあるのがよくわかる。

というわけで

今日のランチはピクニックである!

しかしピクニック?

そういわれてもげばはうれしくない。

それこそ仲のいい人数人でサファリのど真ん中でピクニック

というとテンション上がると思うが、べつに友人でもない知らない人と食事するなんて。

これほど気まずいものはない。

これなら一人の方がましである。

しかしサバンナのドまんなか、シッター2号から離れるのは危険だ。

つまり

むりやりいっしょにいないといけないのだ。

ガイドの方もそう思っているだろう。

普通はグループをガイドするから、自分は一人、木陰でひっそり静かに食事できるのに、客が一人だと、自分が相手せねばならず、それこそ客のベビーシッター気分であろう。

個々の思いを抱えながら

一応私たちはサバンナの木陰でお弁当を広げる。

…..どうも気まずい。

お弁当はロールパンにサラダとかチキンなどを挟んだもの。チョコバー、オレンジ、ビスケット、ジュースなど。

朝、シャンパンブッフェをいただいたのでぜんぜんお腹空いてない。

だが無理やりロールパンのサンドイッチをかじった。

別に食べたかったわけではない。

なま物だから残すとだめになるかな。という中年女のもったいない病が発動しただけである。

こんなことしてるから太るんだ!

やれやれ。

私とシッター2号は無言で食べ物を口に運んでいた。

きまずい。

とそこへコウノトリのような大きな鳥が近づいてきた。

「あいつはいつも食べ物の匂いを嗅ぎつけてやってくるんだ」

イギリスや日本ならこういう場面でははとが寄ってくるのだが、

アフリカは巨大なコウノトリもどきがやってくる。体感で鳩の300倍。

やっぱりここは世界が違う。

「攻撃してこないから、大丈夫だよ。」シッター2号は笑っていた。

巨大コウノトリもどきは

彼にとって見慣れた「鳩」なのだ。

「さて、食後の歯磨きをしよう」

シッター2号は緑の葉っぱの芯をとり自分のナイフで器用につまようじを作った。

このナイフは猛獣から身を守る護衛の刀であるが、こういった日常品をつくるDIY用品でもあった。

「君のも作ってあげよう」

彼は親切にマイつまようじを作ってくれた。

二人でシーシーやりながら私はもう一度きいた。

「奥さんにもつくってあげるの?」

シッター2号は間髪いれず言った。

「絶対しない!」

…… 

はっきり、きっぱり言い切った彼を見て私は思った。

もう何もきかない。

太陽が照りつける広大なサバンナのど真ん中で

私はそう決意するのだった。

投稿者 geba-

21年の国際結婚にピリオドを打ち、今現在シングルアゲインしています。この生活は思った以上に快適で、NHSの病院で働きながら、漫才みたいな生活を楽しんでいます。女子トーク、イギリス生活、そしてシリアスな人生観を書いていきます。

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